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つくりものがたり

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2012年 07月 08日

水俣から福島へ ~この50年はなんだったのか~ ①

テレビを見ないので、世の中のことは購読している朝日新聞で知る。
福島第一原発の問題が何の進展もないままに政府は大飯原発の再稼働を決める。
一方では、この7月末に「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別
措置法」の申請期限が来る。先月25日には民間医師らによる集団検診があったばか
りで、このところ、原発と水俣病関連の記事が続く。


動かぬ原発に2000人

水俣から福島へ ~この50年はなんだったのか~ ①_d0169209_2345234.jpg 7/5朝刊の大平要記者の署名記事。

福島第一原発からわずか10km南の福島第二原発。 稼働には地元の同意が不可欠なため、
この原発が再び動く見通しはまったくなく、にも関わらず、今も毎日2000人の作業員が高い放
射線量の中、補修と点検にあたっている。原子炉を冷やしておくためには、人手をかけて、その
ための設備を動かし、修繕や点検をしなければならない。 その費用は年に900億円。 東電は、
この900億円を、家庭向け電気料金の値上げでまかなおうとしている。


地元福島県は県内の原発をすべて廃炉にするよう求めているのに、なぜしないのか。
「廃炉を決めたとたん、数千億円の損失が発生する可能性がある」からだ。 廃炉と同時に、発電
所の資産価値が一気にゼロになり、廃炉費用もかかる。 この損失のせいで東電は、財産をすべ
て処分しても損失を埋めきれない「債務超過」に陥る。


「水俣」と重なって見えるのは、ここから先だ。
そもそも、東電は事故の賠償費用が数兆円かかって債務超過になるはずだったため、廃炉も一緒に
決めたうえで、つぶす選択肢もあった。 ところが政府は、賠償責任から逃れるため、お金を貸す銀行
や株主を守り、責任主体としての東電を残し、つぶさなかった。

水俣と同じだ。
裁判に負けた、水俣病の原因企業であるチッソは莫大な賠償金を負わされることになるが、県も、国も、
決してチッソをつぶさなかった。 賠償義務があるから、どんなに傾いてもチッソはつぶれない、と言われた。
力関係でいえば、チッソよりも、もちろん県、国のほうがはるかに強い。 


 かつて水俣で起こったこと

1959年に熊本大学医学部研究班は、水俣病の原因物質が魚介類中に含まれた有機水銀であるという
報告を提出。その旨の答申を厚生大臣に提出したが、当時の通産大臣で、翌60年から首相として高度
経済成長を推進する池田隼人は、原因を有機水銀と特定するのは時期尚早と発言して了承され、答申は
棚上げ、その後はさまざまな異説を立てて、御用学者と国は原因究明の攪乱を図った。
同じ1959年にチッソ水俣工場附属病院(会社病院と市民は呼んでいた。いまはもうない)の院長、細川一
医師が猫への工場廃液の投与で、「奇病」と同じ症状を再現した(「猫400号」として知られる実験)が、
会社はこの結果を握りつぶし、数年後に形ばかり立派な「浄化装置」をつくり、(水銀を含む廃液とは別
経路の廃液だった)時の工場長が、「飲んでもなんともありません」と言って、その装置で「浄化」された
廃液を飲んで見せた。


 取り返しのつかない10年

こうして、水銀を含む廃液の垂れ流しと製造は、「奇病」の原因は工場廃液であるということを誰もが知って
いながら、じつに1968年までつづいたのだ。
1959年の時点できっぱりと製造をやめていれば被害は格段に小さかっただろうことを思うと、この10年は
悔やんでも悔やみきれない。 これははっきりと、「犯罪」である。 誰の? 思うに、この裁判を行うとすれば、
第二次大戦後の、東京裁判やニュルンベルグ裁判に酷似してくるのではないだろうか。 もちろん、裁判は
行われ、その結果も出た。 司法は会社と、県と国に責任を認めた。 しかし、こころから罪を感じ詫びた人間がい
ただろうか。 今回の福島第一原発~東電~国の有り様がここにもきれいに重なってくる。 巨悪にかかわ
った人間たちが、みな一様に、自分は自分の部署で手を尽くした、あの状況ではどうすることもできなかった、
仕方のないことだった、と腹の底では思っている。 自分が関わったことが、取り返しのつかないことを生んで
しまった、という根本的な罪責感がない。


追記)  「浄化装置」(サイクレーター)について
     
  弁護士として水俣病裁判に関わった後藤孝典氏の著書「沈黙と爆発」に次のような記述がある。
・・・・サイクレーターはもともと有機水銀説が公表されるよりも前に、排水に含まれるカーバイト残滓を取り出して、
マグネアンクリンカ―を製造する目的で計画されたもので、固形物を凝集沈殿させて取り出すことはできても、排
水に溶解している有機水銀を除去する能力なぞあるはずがない。
 私はサイクレーターを設計した荏原インフイルコ株式会社の技師から、このサイクレーターは有機水銀を除去す
るために設計されたものではないことを直接確認した。(第二章 敗北 P101)

by kobo-tan | 2012-07-08 01:47 | 水俣から福島へ


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