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つくりものがたり

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2013年 10月 10日

「自分を律する」ことは可能か?




新聞を読むのは好きな方で、どんなに夜中遅く帰ってもともかくザーッとは目を通す。
でも、新聞読みたくないと思う時もあって、そういう時は夜中の晩飯を食いながら、読みさしている本を読む。
新聞読むより、興味ある本を読んだ方がまだましだとそんな時は思ってる。毎日毎日つまんない記事ばっかり載せやがって、なんて。

昨夜もそう思いながらパラパラめくっているうちに、この記事が目にとまってついつい最後まで読まされてしまった。
10月8日朝日新聞朝刊のオピニオン。


小田嶋さんの話。
つねづね「自分の人生を設計する」なんて言葉にうさんくささを感じてきたので、(なんて、人生設計できないやつが言っても説得力はないけど)
そういう感覚が、「金さえあれば何でもできる」と同じくらい軽薄だ、と喝破した小田嶋さん。ちょっとおれは、よくぞ言ってくれたと胸中ひそかに快哉を叫んでしまったね。
この人生を経ないと生まれない言葉。熟読玩味しました。



中井さんの話。
これもこの方の何十年にもわたる積み重ねあっての深い言葉。襟を正します。
「のみ込みの早い新人ばかりだと人材育成力が急激に落ちる」
「優秀な人間に目をかけすぎると、社員は嫉妬でひねくれてしまう。底辺に手をさしのべることをひいきや差別とは言わない」
「しかし、(服役受刑者の受け皿に)大企業は見当たらない。理由は株主と組合ではないでしょうか。株主は「利益」に結び付かない行為を嫌がるし、多くの企業内労組は、正社員の既得権益を守ることに注力します。


うーん。 鋭い。
ここにも個人と組織の問題がある。





(耕論)生き直すために 小田嶋隆さん、中井政嗣さん


 遠回りが近道なのか、近道が遠回りなのか。人生の成功と転落は紙一重。考え方次第だったりもするが、どん底に落ちても、時間を巻き戻すことはできない。人生はやり直せるのだろうか。やり直しとどう向き合えばいいのだろうか。


「自分を律する」ことは可能か?_d0169209_10172287.jpg ■何かを捨てることから始まる やり直した人、コラムニスト・小田嶋隆さん


 
私は「人生やり直し」を2度経験しています。1980年に大学を卒業して、新卒で入った会社を8カ月で辞めました。辞めて何をするという目標があったわけじゃなくて、ただ職場の不愉快なことから逃げたかっただけです。

 当時、上場企業の正社員というコースから一度外れると、再チャレンジは難しかった。普通の再就職は目指さず、3~4年アルバイトしていました。放送局のADや小学校の事務をやって、年収200万円以下で暮らしてましたね。

 文章を書く仕事を始めたきっかけは、趣味でやっていたバンドです。ライブハウスで知り合ったんですが、銀行の電算室に勤めながらパソコンの入門書を何冊も書いていた人がいて、「ぶらぶらしてるんだったら、パソコンの本を書かないか」と。それがライターとしての初仕事です。

 「本を書いたことがある」というのが通行証がわりになって、パソコン雑誌から仕事が来るようになりました。80年代半ばはちょっとしたパソコンバブルでしたから、けっこう稼げましたよ。

     *

 <人生の棚卸し> ところが、30歳前後から、アルコール依存が始まりました。30代はまるまる酒浸り。酒が切れるとうつ状態になるので、自殺しないためには酒を飲み続けるしかない。原稿を落とすことが重なり、仕事もかなり減りました。

 最終的に断酒したのは39歳のときです。あまりに体調が悪くて、5日間酒をやめたら、ほとんど眠れず、幻聴まで出た。あわてて心療内科に行くとアルコール依存症と診断されました。「このままだと40代で酒乱、50代で人格崩壊、60代でアルコール性痴呆(ちほう)。もう一生飲まないしかないよ」と宣告された。

 それまでは人と会うのも、音楽を聴くのも、野球を見るのも、すべて酒を飲みながらでした。「酒をやめるというのは、酒のない人生を新たにつくることだよ」と医者に言われて、慣れ親しんでいたことを片っ端からやめた。好きだった音楽も聴かず、野球も見ない。断酒自助グループのアルコホーリクス・アノニマス(AA)では「棚卸し」というんですが、いわば人生をリセットしたんです。

 酒をやめると、膨大に時間が余る。何をしていいかわからない。サッカー観戦にはまったり、自転車を乗り回したり、イグアナを飼ったりした。何かで時間をつぶさなければいけなかったからです。

     *

 <「自律」は勘違い> 私は「やめる」こと以外は何も達成していません。サッカー観戦も自転車もイグアナの飼育も、あくまで時間をつぶすための手段。酒をやめたことで仕事はうまくいくようになりましたが、それは結果であって目標じゃなかった。

 AAでは、最初に「私は、自分では自分の人生をどうにもできない人間であることを認めます」と言わされます。これは一理あって、「自分で人生を立て直せる」と思いこんでいると、依存症からは逃れられない。ビジネス本に書いてあるような「自分の人生を設計する」という感覚は、「カネさえあれば何でもできる」と同じくらい軽薄ですよ。「自分で自分を律する」というのは大きな勘違いで、そういう意識があるかぎり、人生のやり直しはできない。

 就職のやり直しにしても、結局は運です。「夢に向かって努力する」では、こだわりでがんじがらめになるだけ。自分がどの仕事に向いているかなんて、実際にやってみなければわからない。

 人生を途中からやり直そうとするなら、まず何かを捨てることです。捨てた結果、その空白に強制的に何かが入ってくる。その「何か」がいいか悪いかは、また別の話ですけれど。私は会社を辞め、酒と一緒にそれまでの生活を捨てたことで多くのものを失いました。でも、代わりに手に入れたものも明らかにある。あそこでやめていなかったら、今のような人生は歩んでいない。どちらがいい人生だったのかはわかりませんが。

 30歳過ぎた人間が、自己を改造するなんて不可能です。もうできあがった人間なんだから。ただ、何かをやめることはできるかもしれない。人生をやり直すには、何かを「目指す」んじゃなくて、「やめる」ことからです。

 (聞き手・尾沢智史)

     *

 おだじまたかし 56年生まれ。IT、政治、社会からスポーツまで、幅広いテーマの切れ味鋭いコラムで知られる。著書に「小田嶋隆のコラム道」「場末の文体論」など。


 



「自分を律する」ことは可能か?_d0169209_102426100.jpg■「落ちこぼれ」が組織を育てる やり直しを手伝う人、千房社長・中井政嗣さん



 山口県の刑務所に窃盗罪で服役した受刑者を採用したのは、2009年12月です。刑務所で面接し、採用したのは初めてのことでした。きっかけは、「受け皿になってくれませんか」という刑務所からの依頼です。出所後、働く場所がないために再犯して刑務所に戻る悪循環が止まらない。犯罪白書によると、11年の刑法犯の再犯率は43・8%で過去最悪を記録。15年連続で悪化しています。

 千房には、実績がありました。約30年前から、不良少年少女を知り合いに頼まれて採用してきました。創業時は雇いたくても人が来ないという事情もありました。店長の昔の写真が、改造バイクにまたがって鉄パイプを振り上げている、なんてこともありました。

     *

 <信頼で劇的成長> 社内では「イメージが悪くなる」といった意見が出ました。「善悪で考えれば善だ」と説得し、「殺人、薬物、性犯罪」は除いて、採用を始めました。

 私は、過去は変えられなくても、未来は変えられると考えています。誰でも信用して寄り添えば、劇的に変化し、成長しました。受刑者を面接してわかったのは、家庭環境が原因で道を踏み外していることです。「紙一重」だと感じました。「何がそうさせたのか」を見極め、社会で改善しないと、犯罪は減らないでしょう。

 ただ、やり直しを手伝うことは、きれいごとだけではすみません。09年から受け入れた人のうち、ほぼ半数は退社しました。

 ある少年は突然、無断欠勤を始め、探しても見つからない。10日後に戻ってきました。店長が泣きながら、復帰の嘆願書を出しました。でも、結局、自主退職しました。別の成人男性は、売上金や経費の管理もしていましたが、パチスロでお金を使い込んで、店のお金に手をつけた上に、知り合いに消費者金融で借金させていたことがわかりました。在職中なので計数百万円を会社と私で立て替えて、懲戒解雇にしました。

 職場には一時、人間不信の空気が広がりました。ただ、大切なのは残った半数は、まじめに働いているという事実です。全国の店長とミーティングを重ねました。多くの店長が「根気良く進めましょう」といった意見を寄せてくれます。私が店長を任命する際の基準は、「こいつに裏切られても腹はたたんな」というものです。

     *

 <人材育成力つく> 世間で言う「落ちこぼれ」を受け入れるのは、実は最高の従業員教育にもなります。

 千房も知名度が上がり、大卒も入社するようになりました。ただ、のみ込みの早い新人ばかりだと、人材育成力が急激に落ちる。逆に、落ちこぼれを採用すれば、手間と時間はかかりますが、上司は人を育てることと正面から向き合わざるを得なくなります。

 また、落ちこぼれは、上司との信頼関係が構築されれば、不器用ながらも懸命に壁を乗り越えようとする。その姿勢をつぶさに見ることが、上司の突破力を高めます。「育てているつもりが、いつの間にか育てられている」という逆説が起こるのです。

 人を育てるときは、組織の底辺に目をかけると問題が起きにくい。優秀な人間に目をかけすぎると、社員は嫉妬でひねくれてしまう。底辺に手をさしのべることを、ひいきや差別とはいいません。「ボトムアップ」が会社の競争力を高めるのです。

 しかし、受け皿企業は中小・中堅がほとんど。今春から飲食、建設、美容業の7社や日本財団と協力し、元受刑者らの就労支援を進めることになりました。ほかにも参加を希望する企業が出ていますが、大企業は見あたらない。理由は、株主と組合ではないでしょうか。株主は「利益」に結びつかない行為を嫌がるし、多くの企業内労組は、正社員の既得権益を守ることに注力します。

 私は企業の存在意義は、社会貢献にあると思っています。「経済」の語源は「経世済民」。「世をおさめて、民をすくう」という意味です。罪を犯しても心から反省し、働く意欲のある人には仕事を提供したい。元受刑者たちが立派に更生して、店長になって、一緒に刑務所で面接してくれる日を心待ちにしています。

 (聞き手・古屋聡一)

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 なかいまさつぐ 45年生まれ。中学卒業と同時に乾物屋にでっち奉公。73年に大阪にお好み焼き専門店「千房」を開店し、62店、売上高50億円のチェーンに成長させた。


by kobo-tan | 2013-10-10 11:09 | つぶやき


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