2013年 12月 30日
FBへの投稿記事です。
昨日の朝日のオピニオン欄。首相の靖国参拝についてのニ氏の考察はよかった。素人考えだが、さすがに元外交官の東郷氏の認識は冷静。「同盟国に対して『失望した(disappointed)』ということの恐ろしさ」は、現場を知ってる人の言葉として重い。小田嶋さんの意見もむべなるかな、安倍氏を舞いあがらせているのは、彼のFBページをのぞいて以来、ネトウヨの存在だろうと思っていたので非常に同感。氏が言うように、自民党にいる「こころある」政治家は党を割って出て新自民党をつくるくらいのことをやってくれないだろうか。政局は混乱するだろうが、現状のままの方がよほど国民には迷惑。
*東郷氏は、太平洋戦争開戦時(東條内閣)と終戦時(鈴木貫太郎内閣)の外務大臣でA級戦犯となった東郷茂徳の孫に当たる方。一方、安倍晋三は、開戦時の東條内閣で商工大臣だった岸信介(A級戦犯被疑者)の孫。認識明晰な東郷氏のような方は首相にならず、首相になりたがるのは安倍氏のような人しかいないのがこの国の大きな不幸だと思うんだが…
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(耕論)靖国参拝、信念の向こう側 東郷和彦さん、小田嶋隆さん
安倍晋三首相が靖国神社に参拝した。米国は失望し、中国、韓国の反発に加えて欧州、ロシアも批判する。安倍首相の信念が生んだ出来事をどう読み解くのか。外交の専門家と日本社会を見つめる識者の2人に聞いた。
■「国産の歴史認識」のなさ露呈 元外交官・京都産業大学教授、東郷和彦さん
先の戦争で亡くなった人たちを慰霊する場として、私は条件さえ整えば、靖国神社が最適だと考えます。しかし今の状況での首相の参拝には賛成できません。
一番の問題は、日本の戦争責任について日本人自身がいまだに総括していないことです。中国や韓国が反発するから、米国が何か言ってくるから、何とかしないと、という問題ではないのです。
退官後の2006年、小泉純一郎首相が靖国に参拝する少し前に、私は首相の参拝を「一時停止」し、A級戦犯合祀(ごうし)を始めとした問題を解決した上で再開すべきだと提言しました。しかし、その後7年、議論らしい議論もないまま、安倍晋三首相は参拝しました。極めて残念です。
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<戦争責任直視を> そもそも、日本人全体の戦争責任をどう考えるのか。
日本による満州国の建設、盧溝橋事件に始まる日中戦争、中国南部への進出など、徐々に広がっていく過程を国民は見ていました。知らなかったとは言えません。
しかも日本人の中に、赤紙一枚で召集された兵と、それを指揮した人を同列に扱うのかという根深い対立がある。靖国問題とは、まず私たち日本人の問題なのです。
自前の歴史認識を作る代わりに、日本は中国製の歴史認識を受け入れたと言われても仕方のない行動をとりました。1972年の日中国交正常化の時に当時の周恩来・中国首相が出した「日本軍国主義は日中人民の共通の敵」という「周恩来テーゼ」です。悪いのは日本の一部の軍人や軍国主義者たちで、大多数の日本国民は被害者だったというものです。
当時の田中角栄首相は反論しなかったし、歴代首相もとりたてて反論はしませんでした。国際社会では反論しなければ受け入れたとみなされます。A級戦犯は国際的に日本軍国主義の象徴とされてしまった以上、反論するにはよほどの覚悟が必要です。
*
<不信深める挑発> 06年の小泉参拝当時に比べて国際情勢は大きく変わり、事態はさらに深刻です。
昨年9月の国有化以降、尖閣諸島の周辺で日本と中国の間で戦争が始まるかもしれないという危険な状態が続いています。
首相の責務は、尖閣が日本の領土だという筋を通しつつ、中国との戦争を回避することにあります。方法は抑止と対話の二つ。抑止は重要ですが、装備を増強するだけでは危険度が逆に増してしまう。対話は不可欠です。
対話を成功させるためには、不信感が生じるようなことは一切差し控えるべきでした。中国は靖国を、首脳会談が困難になるくらい重大な問題ととらえている。それを承知して参拝したことで、中国からの日本の首相への不信感は増幅します。限りなく危険です。
米国は靖国問題で中国を挑発するな、という意味のメッセージを送り続けていました。にもかかわらず、参拝してしまった。
万が一、中国との間で戦争状態になった時に、米国は本当に助けに来るのか。米国世論はどう出るか。中国を挑発するような愚かな国のために血を流す必要があるのか、ともなりかねません。
同盟国に対して「失望した」と言うことの恐ろしさを知ってほしい。外交の世界で同盟国にこんなにはっきり言うのは異例です。
韓国にとって靖国は主要問題ではないと私は考えています。しかし、韓国が反発するのは明らかです。理由なく悪化している日韓関係の立て直しこそ首相の重大な職責にもかかわらず、また一つ不信の要因を作ってしまった。
北方領土をめぐり、プーチン大統領との間で、かつてない打開の機会があると見られたロシアからも批判の声があがり、日本との関係を進めようという力を大きく減らしてしまいました。
安倍首相は、靖国参拝というたった一つの行動によって、米中韓ロの歴史認識に関する包囲網を作らせてしまった。安倍さんの周りには優れたアドバイザーがたくさんいるのに、どうしてこういう行動になってしまったのか。日本人として極めて悲しい。
日本人自身としての歴史認識と、外交の優先順位の原点に戻って考え直す必要があると思います。
(聞き手・編集委員 刀祢館正明)
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とうごうかずひこ 45年生まれ。外務省条約局長、欧州局長などを歴任。元外相でA級戦犯の東郷茂徳は祖父。著書に「歴史認識を問い直す」「歴史と外交」など。
■「いいね!」過信が「失望」招く コラムニスト、小田嶋隆さん
安倍首相の靖国参拝は、単なる一か八か、ではなく、世論はついてくる、という彼なりの計算や勝算があったと思います。その根拠を与えているのがフェイスブック(FB)ではないでしょうか。
安倍さんのFBを見ていると、称賛の声しかありません。FBは誰のものでも基本的にファンしか集まってきません。産経新聞によれば、参拝後、「いいね!」ボタンが4万回押されたそうですね。もし、FBに「ふざけるな!」ボタンがあれば、がんばって押しに来た人も大勢いたでしょうが。
ちょうど白雪姫に出てくる魔法の鏡のように、「世界で一番愛されている首相はだれ?」と聞くと、「安倍さんに決まってますよ」という返事が返ってくる。それを毎日見ているうちに、どうしても影響される。
*
<直接届く民の声> 私の長年の雑誌での経験で「読者はがきに気をつけろ」というのがあります。投稿者は思い入れが強くて平均的な読者とは違う、影響されるな、と。でも、ものを作っている人間は心細いところがあって、2、3の極端な意見でも励まされたりがっかりしたり。
まして、首相のような立場の人にはこれまで、民衆の直接の声が聞こえてこなかった。FBで直接声が届くことで、本人は非常に勇気づけられる。その影響は少なくないと思っています。
今月下旬、通信社が今年は参拝しないだろうと配信したら、ネットには「がっかりした」という声があふれ、FBにも「行ってほしい」という声が少なからずありました。民の声に見えるものが何万とあると、どうしても引きずられてしまう。FBは政治家の背中を押すメディアなんです。
ネットが政治化する傾向は、日本社会でより顕著かもしれません。日常的に政治の話をすることがタブー視されているので、ネットの中に潜り込みがちになる。しかも匿名なので、右であれ左であれ、極端な意見に傾いていく。中国、韓国に対して毅然(きぜん)とした態度をとると圧倒的に評判がいい。
今回の靖国参拝でも政権の支持率はそれほど下がらないのではないか、と思っています。
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<決断力に好反応> リーダーが何であれ、決断することを歓迎する風潮がこの10年、露骨になっています。参拝の是非より、首相が信念をもってやったことを支持する。事のよしあしはどうあれ、きっぱりした決断力、実行力に国民が反応するということが如実にあります。
多くの人はおそらく、首相の靖国参拝自体、何それ、という感じかもしれません。それより、中国や韓国にいろいろ言われるのは不愉快だという気分の方が大きい。事情も聴かずに「そこ、もめないで」と学校の先生みたいなことを言っている米国も面白くない。だから、諸外国の顔色をうかがったりせず、毅然として参拝したことに、たくましさを感じる国民も一定数いるでしょう。
考えてみれば、リーダーに決めてもらいたいというのは、自分では考えずに丸投げすることになります。民主主義国家として健康とはいえない。民主的に決めようと思ったら、複雑だし、迷いもあってぶれるし、時間もかかる。決断は煮え切らないものなんです。
そんな中で、自民党内でも決して圧倒的な支持があったわけではなかった安倍首相は、小選挙区制を背景に、分不相応といっていい絶対権力を握ってしまった。しかも、かつての自民党は、実に幅の広い政党だったのに、今や一枚岩です。党内の風通しは悪く、異論の存在が許されず、元気の良かった若手の声も消えました。
短期的には悲観しています。アジアだけでなく世界中にいる日本人が住みにくくなるでしょう。米国からは、「disappointed」、つまりがっかりしたという、男女の間なら別れ話になるような強い言葉が出た。いずれお灸(きゅう)をすえられるかもしれない。
今回の出来事は、安倍さんが自信をつけて、戦後民主主義の全否定へと露骨にかじを切った、分水嶺(ぶんすいれい)だった、と後に振り返ることになるかもしれません。私は、自民党内のリベラル派が、党を割って出て第二自民党を作るのを期待したい。要は「自民党を、取り戻す。」です。
(聞き手・辻篤子)
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おだじまたかし 56年生まれ。切れ味鋭いコラムに定評があり、ネット連載「ア・ピース・オブ・警句」が人気。著書に「もっと地雷を踏む勇気」「場末の文体論」など。
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