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つくりものがたり

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2011年 12月 03日

時間(とき)をみつめて

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もう、ずっと前のことだけれど、吉田美奈子を聴き始めたのは、朝日新聞夕刊の新譜レビューに「美空ひばり亡き後、歌唱力ではこのひとがいちばん…」などという、いま思えば大時代的でちょっと可笑しくなるような記事が載っていたからで、それに興味を引かれて貸しCD屋で借りてきたのが、その時紹介されていた「gazer」だった。
それまで彼女の歌は聴いたことがなく、聴きはじめがこの「gazer」と前作「dark crystal」だったわけで、これはもうとんでもない2枚だったから、ぼくはぶっとんで、それから長いつきあい(といってもまったく一方的なそれ)がはじまったのだった。


それからの十数年彼女は、ぼくのなかで、新譜情報が出ると発売日を待ってCD店で購入する唯一の音楽家であり続けた。「gazer」から5年後の「extreme beauty」以降は、より多く他者と関わっていこうとするような、ひろく豊かなものを志向する方へ変わってきたと思うけれど、また、それはそれで素晴らしい楽曲と歌を届け続けてくれてるのだけれど、いまの時点で彼女の音楽史を俯瞰した時、息を詰めるように集中して聴いていた「dark crystal」と「gazer」の音楽世界が、いまなおいっそうの輝きをはなってぼくに迫ってくる。


「dark crystal」も「gazer」も、音の厚みと、音のキレがともかく凄かった。これは、それから20年経たいまでも、感想は同じ。いまはもう、これは古いなどという感想など持ちようがない。業界通っぽい見方をすると、当時最強のフェアライトというシンセサイザーに音楽家たちが挑んでかなり作り込んでいた時代といえるのだろうけれど、Japanese popsの流れのなかで見ても、このあたり1990年前後というのは、音楽的にはひとつの頂点を迎えた時だったのだという気がしてならない。


それともうひとつは、この2作に関わった吉田美奈子さん自身の魂のこと。
彼女は、自身のHPで、小さい頃は幼稚園に行かず、木に登っては哲学する女の子だったと回想しているが、「dark crystal」の前年に御夫君を事故で亡くしておられる。この2作の、きりきりと胃が痛くなるような詩と歌の世界にはそのことが影を落としているだろうことは否めないし、その後の彼女の音楽の変化を見ても、そこはおそらく彼女の魂が通り抜けなければならなかった場所だったのだ。
しかし、「gazer」の方向を推し進めたら、彼女はどんどんアヴァンギャルドになるしかなく、身を削り、自分を追いつめて、彼女はたぶんいのちを縮めていたことだろう。この2作の音楽世界の境地は、例えば世界のpops史のなかにおいても、彼女しかなしえなかった、十分誇り得るものに違いないのだから。


吉田美奈子さん。現在58歳。衰えぬ歌唱でいまも多くの音楽家から共演を請われ、地道にライブ活動を行っておられる。
ぼくはいまだに、彼女の歌を、生で聴いたことがない。家と仕事場の往復に明け暮れる毎日のなかで、彼女の歌を聴かずに、死んでしまっていいのかという思いが胸を過る。それがたとえ、人生のなかの一瞬の輝きだったとしても。












by kobo-tan | 2011-12-03 13:11 | 音楽


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